教室だより161

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第161回】

コロナ下のコンサート

 私は音楽なしでは生きられないタイプの人間なのですが、コロナ下でなかなか実演を聴くことができず、残念に思っていたところ、知り合いから秋山紗穂さんというまだ芸大大学院在学中の新進ピアニストの九月十三日のプレ・コンサートに誘われたので、「よく知らないピアニストだけど、まあコンサートに飢えてるし」くらいの気持ちで出かけました。曲目はショパンの「ノクターン」、シューマンの「トロイメライ」、リストの二つの伝説より第二曲「波を渉るパオラの聖フランチェスコ」、ベートーベンのピアノソナタ「熱情」などでした。生意気にもお手並み拝見くらいの気分で聴き始めましたが、すぐに圧倒的なすばらしさに引き込まれてしまいました。弱音部は繊細、流麗で、強音部はインパクトが強く、切れもよい、なんというかダイナミックレンジの広い演奏で、曲想にかんしても、ストーリーが浮かび上がってくるような実感があります。そしてなんといっても、特に弱音部で、目を見開いてあたかも宇宙音楽に聴きいっているような表情を見せます。本物の音楽人間だと感じました。あまりに感動したので、ベートーベン生誕二五〇年を記念して、広上淳一指揮日フィルと共演した、十月三日のベートーベンのピアノ協奏曲第五番「皇帝」も聴きに行ってしまいました。こちらも初めてこの曲の真価が分かったと思えるようなすごい演奏でした。彼女の演奏はユーチューブなどでも配信がありますが、正直言って生じゃないとまったく良さが分からないと思いました。今後ずっと応援していくことに決めました。私は来年一月二十四日の国立市民芸術小ホールで行なわれるピアノ四重奏曲のコンサートにも行くことにしていますが、皆さんも興味のある方は一度聴かれてはいかがでしょうか。
 まだコロナ下での演奏会なので、入口では検温があり、チケットも自分でもぎり、座席も一席おきに座るようになっていますが、聴く側としてはかえって快適です。ただ、普通コンサートの後には握手会、サイン会があり、演奏者と多少交流することができるのですが、まだそれはできず残念でした。私はいろんな音楽ジャンルが好きで、特に古楽が好きなのですが、過去のコンサートに行った際のそうした交流が懐かしく思い出されます。

 二枚ほど、過去のコンサート後の握手会の写真を掲載させていただきます(写真はFaceBookに掲載しています→こちら)。
 一枚目はファビオ・ビオンディが指揮するヴィヴァルディの「メッセニアの神託」というオペラを聴きに行った際の写真です。彼はパレルモ出身の天才ヴァイオリニストで、ヴィヴァルディの「四季」の鮮烈な演奏で世界中にインパクトをもたらしました。バロック・ヴァイオリンは金属弦ではなく、ガット弦という主に羊の腸を素材にした弦を用いており、柔らかいニュアンスに富んだ音を響かせます。彼はヴァイオリンだけでなく、エウローパ・ガランテという団体を自ら結成し、弾き振り(自ら演奏しながら指揮をする)で演奏します。
 二枚目は、リナルド・アレッサンドリーニのモンテヴェルディの「聖母マリアの夕べの祈り」の聴きに行った際の写真です。彼はローマ出身のやはり天才チェンバロ奏者で、自ら結成したコンチェルト・イタリアーノのという団体を率いています。二人ともこれぞ音楽という演奏を聴かせてくれます。機会がありましたら、皆さんも是非聴いてみてください。

塾長先生