教室だより10

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第10回】

記憶のコツ

 よく生徒から「記憶がよくなるにはどうしたらいいんですか?」と聞かれます。私などは記憶術の本を読み通した直後に、何が書いてあったのか思い出せないほど立派な記憶力を誇っていますが、まあ記憶こそ人間の特性なので少し考えてみましょう。
 生徒にはまずスポーツを始めたときの例を出して、「最初は”腰を開かないように”とか”脇を絞めて”とか意識するけど、練習しているうちに自然にできるようになるよね」という話をします。試合でそんなことを考えていたら、球がビュッと来て終わりです。あるいは「”あ”という字を思い出せない人がいますか? いないよね。でもよく考えてみると、小学校に入りたての子供にはかなりの高等技術だと思わない?すごく練習したはずだけど練習したことも忘れているよね?」という話をします。
 ここから分かるのはまず、『頭から入ったことは体に、体から入ったことは頭に』という原則です。英語を覚えるのに、ただ目で見ているだけなのは最悪です。”どなり散らしながら書きなぐる”のが一番です。 しかも活字体は抽象度が高いので、手癖で身につく筆記体が最善です。体、感覚器官をいっぱい使いましょう。
 次に分かるのは、『記憶とは能力であり、能力になるためには忘れる必要がある』という原則です。額に張り付けてこぼれ落ちないようにしているような短期記憶は記憶ではありません。普段忘れていてもいつでも取り出せてはじめて能力といえるのです。そのためには、練習したら一度眠って次の日にもう一度取り出せるか確かめる勉強法をとることです。練習する際に、すでに身についている知識といっしょに結びつけて覚え、取り出す鍵にしておければより楽に思い出せるでしょう。だからといって、無理に忘れようとする必要はありません。「何を忘れなきゃならないか常に思い出せていいじゃないか」という考え方もあるかとは思いますが、たぶんビョーキになりますのでやめておきましょう。睡眠が自然に記憶を能力に変えてくれるのです。

塾長先生