教室だより130

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第130回】

明るければいい?

 本当に明るくて、愛嬌があって、当意即妙に反応してくれて、お馬鹿なことを言ってはいじられて自分も大笑いし、一緒にいるだけでみんなも楽しくなるような子がいます。笑いが止まらなくなったり、授業中もしゃべり続けたりするようでは困りますが、勉強にも真剣に取り組み、切り換えられる子なら、こちらも和みますし、授業も盛り上がって、本当にすばらしいと思います。
 ただ、よくよく見ていくと、なかには、あけっぴろげなようでいて、自分の本心は決して表わさず、ものすごく努力した試験で失敗してもハイテンションで、面接など緊張するはずの場面でもTPOをわきまえない態度をとってしまったりする子もいます。周りに配慮して落ち込んだ態度を見せないわけでもないようです。それでいて、反面、そういう子が家では全然しゃべらず、別人の顔を見せるのです。そうなると、躁的防衛を疑わないわけにはいきません。躁的防衛とは、自分の不安や恐怖に眼をやらないように、テンションを高めて自分を護ろうとする防衛機制です。
 根底に対人恐怖や社交不安があり、長いことそれで乗り切ってきているので、そう簡単に緩和することはできませんが、そのままいくと、のちのち公的場面で失敗を繰り返したり、本当に心を開く段になると、怖くて気持が伝えられず、いい加減に見える態度をとってしまって、大事な人との関係がうまくいかなくなったりする心配があります。これまでも、そういうことがあったかもしれません。
 塾では教科の学習を進めなければなりませんので、なかなか直接的な対処をするわけにもいきませんが、なるべくその子がリラックスして安心できる環境をつくっていくように心がけています。年数を重ねていくと、だんだん黙っていても大丈夫と思い始めてくれたり、落ち着いて本心を少し語り始めてくれたりする場合もあります。こういう子の素の自分はとても繊細で、自分が傷ついたことがある分、人を思いやる心をもっています。塾での日々をきっかけに、将来、自己認識を深めて、自信をもって素の自分で生きていけるようになってくれることを願っています。

塾長先生