教室だより135

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第135回】

西日本豪雨の話

 お盆休みに因島に帰省しました。島に住んでいる二人の兄から、先月の西日本豪雨の話を聞き、考えさせられることがありました。故郷の因島は、気候の穏やかな瀬戸内海のど真ん中に位置し、台風などの風水害を受けることはほぼありません。しかし今回は、島の各地が冠水し、崖地の斜面にある段々畑が何十か所も崩れ無残な地肌を見せています。三兄の家の裏にある段々畑も崩落し、GWに収穫を手伝った安政柑の木も、土砂と一緒に崩れ落ちてしまいました。幸いなことに家屋の壁のところで土砂が止まり、人的な被害はなかったのですが、危機一髪のところでした。

 海沿いの商店街の端にある実家には、四兄が住んでいるのですが、10日間の完全断水にはほとほと困ったそうです。島に2か所設けられた給水地に、給水車がやってくるのは1日2回だけで、一人が1回6リットルまで。南北10kmもある大きな島なので、給水地点から遠い人で車のない人はさぞ困っただろうと思いました。

 四兄の話によると、「給水地点では、誰一人怒ったりイライラしたりする人はおらず、互いに譲り合い、思いやる独特の空気が生まれていた」とのこと。断水が終了し給水が再開されたときには、「ああ、これで、あの不思議な連帯感のある場はなくなってしまうんだなあ」と、少し残念な気持ちにさえなったそうです。車のない人の水は、近所の方が一緒に運んであげていたとのこと。普段は意識することのない共同体が、しっかりと生きていたことを実感したそうです。

 レベッカ・ソルニットの「災害ユートピア」によると、“災害時には特別な共同体が立ち上がり、人は困った人に手を差し伸べ、喜々として自分のやれることに精を出す楽園が生まれる”とのこと。災害時だけではなく、日常にもこの“楽園”が生まれることはないのだろうか、と深く考えさせられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

宮地先生