教室だより148

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第148回】

パリ紀行<1>アパルトマン篇

 今回は全部で一週間の日程でパリを訪れました。前回、オペラ座やルーブル美術館など主な見どころは押さえることができましたので、今回は、短くても「住んでいるように暮らすこと」、あと密教修行をしている身としては、もちろん微々たるものでしかありませんが、「慰霊、摂受、怨親平等」を心のうちで祈念しながら巡らせていただくこと、をテーマに据えました。
 ということで、ホテルはとらず、アパルトマンを借りることにしました。今は便利で日本からネットで予約することができます。場所はマレという地区で、今は東京で言えば青山、表参道のようなおしゃれな地区とされていますが、もともとは「沼地」という意味で、中世にはテンプル騎士団の所領でした。十字軍やフィリップ四世「美男王」の奸計によって滅ぼされたことで名高い、あのテンプル騎士団です。フィリップ二世が十二世紀末にパリを城壁で囲いますが、当時ここはその外側に位置していました。ここからモンマルトルの丘にいたるあたりまで騎士団の所有地で、この地に排水を施し、農地、居住地として整備したのもこの騎士団です。騎士団の城砦があった場所は、いまでも「タンプル通り」「タンプル広場」にその名を留めています。
 さて、アパルトマンといっても中世から存続している建物で、それにリノベーションを加えたものです。借りた部屋の他には、普通に住民も居住しています。アパルトマンには、シャルル・ドゴール空港からタクシーで向かいました。いまは定額制がとられているものの、よくぼったくられると聞いていたので警戒していましたが、運転手さんはとても親切な方で、きっかり50ユーロで、途中で観光案内などもしてくれながらマレまで運んでくれて、ほっとしました。 アパルトマンの前ではおばあさんとその息子さんが夕涼みをしていました。ナンバーを打ち込んで入るのですが、戸惑っていると、息子さんの方が見知らぬ者に警戒してる様子のおばあさんに「余計なことするんじゃない」と制されながら、親切に「打ったらすぐにドアを押さなきゃ駄目なんだ」と教えてくれました。ところが、さらに内側のドアで戸惑っていると、今度はおばあさんの方が外から大声で開け方を教えて下さったのが、なんとも可笑しかったです。「結局は親切な人たちなんだ」と端から嬉しくなりました。
 部屋は五階で、当然階段です。スーツケースをもって登るのは難儀しました。しかしその分、五階で周りも広々としているので、窓を開け放つと涼しい風が入り込み、非常に快適でした。(ちなみに、今年のパリは珍しく猛暑でした。)
 パリは外食がとても高いので(たとえばサラダランチを頼んでエスプレッソをつけると、最低でも30ユーロほど)、その意味でもアパルトマンは助かります。食事は、近所のモノプリというスーパーやブーランジェリーでパンやチーズを買ってきて済ませました。キッチンもついているので簡単な料理もできます。買ってくる分にはリーズナブルな値段で(たとえば、バゲット1.2ユーロ、大きな白カビチーズ3 .39ユーロ、大きなトマト三個1.99ユーロ、マッシュルーム山盛り1.95ユーロ、ヨーグルト四個1.99ユーロ、レモンジュース1リットル2.55ユーロ、ハム盛り合わせ2.85ユーロなど)、しかも野菜などは見た目もものすごく美しく、盛り方も非常に美的です。
 言葉の方は、私は以前フランス哲学の大学院に行っていたので、ある程度フランス語は覚えています。また、ちょうど直前にずっとフランスにいらした父兄のお子さんが入塾され、お母様とお話する機会がありましたので、ちょっと発音を聞いてもらったところ、「大丈夫、通じます」ということだったので、一応安心して出かけました。実際、買物等ではあまり困りませんでしたし、細かい話になるとたいてい英語も話してくれましたので、助かりました。よくフランス人は英語を知っていても話してくれないという話を聞きますが、まったくそんなことはありませんでした。
 他にも、不快な態度をされたという話も聞きますが、店に入るときはにこやかに「ボンジュール」と声をかけ、品物を渡してもらったときには「メルシー」、店を出るときには「オゥルブワール」などと挨拶をし、意思表示をはっきりして、服装、マナーなどにも一定の気を配れば、皆とても親切ですし、不快な思いはいっさいしませんでした。美味しいものの説明なども一生懸命してくれますし、値段を尋ねると、日本のおじさんでもたまにいるように、「三百万ユーロ」などと冗談も言ってきます。洋服なども、おまけをつけてくれたりします。 また、普段は干渉しませんが、少しでも困っている様子があると、すぐに誰かが道などを丁寧に教えてくれます。治安も中心部はまったく問題ありませんでした。長期の滞在だと、あるいはいろいろあるのかもしれませんが、少なくとも今回は気持の良いことだらけでした。
 早朝と夕方には、面白いことにフクロウが鳴きました。どこか近くの建物に棲んでいるようです。 また、6時をすぎると、どこからかクラシック音楽の生演奏と拍手が聞こえてきました。教会や近くのヴォージュ広場でミニコンサートが行なわれていたと思われます。パリは8時をすぎても昼間のように明るいのですが、アパルトマンを出てすぐのところに何軒もあるカフェで、仕事帰りの人々がテラスで一杯やりながら談笑している様子がとても楽しげで、こちらも楽しくなりました。
 皆さんも、このスタイルの旅行はお勧めですよ。

※Facebookに写真があります。ぜひご覧ください。→こちら

塾長先生