教室だより153

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第153回】

新しき歌を歌え

 私の一番の趣味は合唱です。大学時代に出会った合唱の曲でとても好きな曲があります。それはJ・S・バッハの作ったモテット「主に向かいて新しき歌を歌え Singet dem Herrn ein neues Lied 」です。音符が細かくてうまく歌うのは難しいのですが、とても華やかな、喜びに沸き立つような曲です。機会があったら一度聞いてみてください。

 私は本業の塾講師の傍ら、幼稚園、保育園で幼児教育にもかかわっています。1歳~5,6歳の子たちと日々過ごす中で目を見張る思いがするのは1日1日と出来ることが増えていく事です。そして初めて何かが出来たとき、とてもうれしそうな顔をする。子どもがうれしくて夢中になる、その様子を見るのが何より楽しいです。
 先日、1歳半くらいの男の子が、初めて自分で靴下を片方脱ぎました。つま先のところをびよーんと引っ張って伸ばしながらですが。そして脱げた靴下をポーンと投げ飛ばし、ニッと笑いました。出来たのがうれしかったんですね。
 また、幼稚園の年長の子が、折り紙で紙相撲の力士を折れるようになり、うれしくて幼稚園でも家でも折りまくって50体くらいを大きなジップロックに入れて持ち歩いていました。そして嬉しそうに会う人ごとに紙相撲の勝負をしようと誘うんです。

 私は行き詰ったとき、うまくいかないと落ち込んだとき、まず無理せず早めに寝ます。そして少し気持ちが変わってきたら、できなかったことができた時の喜びを思い出してみます。昨日より今日、知っていること、考えたことがほんの少し増えて、自分が少し豊かになったら、ちょっと楽しい気分になります。今までやったことのなかった卵焼きがうまく巻けるようになったら、人生が少し豊かになります。初めの目標とは全然違うかもしれないけれど、そして到達したところはもしかして今よりもっとつらいところかもしれないけれど、ほんの少しの一歩前進の先に、必ず何かがあるだろうと思うのです。
 新しく好きになった歌を何回も聞いて、空で歌えるようになったらうれしいよね! その歌を、大きく息を吸い込んで、自分のために大きな声で歌おう。

高橋先生