教室だより158
専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)
【連載第158回】
「前」? 「後ろ」?
「傍線部よりも前の文章中から適切な言葉を抜き出しなさい」 ― 国語でおなじみの問題です。
たとえば傍線部が10行目にあった場合、もちろん答は1行目から9行目までのあいだで探すわけですが、時折、塾に入ったばかりの小学生で大苦戦する子がいます。「なんでいつまでも答えを見つけられないんだろう?」と不思議に思って見ていると、その子は一生懸命、11行目から「後ろ」を探しているのです!
その子たちに言わせると「だって前って書いてあったらこっちでしょ」 。確かに一理あります。
日本語の「前」と「後ろ」は本来空間を表す言葉でした。「前に進め!」は誤解のしようがありません。それが時間に転用されるとややこしいことに。「前にやったことを思い出して」というのは時間的には後ろを振り返ることになります。「先」という言葉も本来「前」と同じ向きを表し、「先のことを考えて」という未来を示す用法がある一方で、「先ほどの問題ですが」というと過去を示すことになります。
意外なことに日本語では、本来「前」は過去、「後ろ」は未来を表す言葉だったそうです。
「過去」はみつめることができるが、「未来」は見えないからです。それが室町時代以降、自分の運命を自分で変えられる世の中になり、「前」「先」=「未来」という用法が生まれて今に至ったようです。
未来は目の前に広がっているからこそ、「前」=「未来」。そう考えると、一生懸命、傍線部よりも後ろ(彼らにとっては「前」)で答えを探している生徒たちは、たくましく未来を切り開いていく人間なのかもしれませんね。
宮地先生 |