教室だより165

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第165回】

仰げば尊し

 1月は行く、2月は逃げる、3月は去るーの言葉通り3学期も早くも半分を過ぎ、いよいよ卒業シーズンが近づいてきました。

 卒業式の日の歌としては最近は「旅立ちの日に」が新しい定番曲となりつつありますが(確かに素晴らしい曲です)、我々講師世代にとってはなんといっても「仰げば尊し」でした。生徒たちに聴いてみると意外なほど多くの生徒たちが歌ったことがあるらしく、いまだに根強い人気があるようです。なんと台湾でもよく歌われているとか。

 さて、この曲のクライマックス部分は「いま~こそ~わか~れめ~~~~」の部分ですが、おそらく多くの人々は「今こそ人生の分かれ目だ」と思って歌っていたのではないでしょうか? 「今まではみんな同級生で仲良しこよしの日々だったが、今日からはみんなの人生は大きく分かれていくのだぞ」という厳しい意味でとらえていた人がほとんどだと思います。

 古文の知識があればわかるのですが、「こそ」は係り結びで文末を已然形にする働きがあります。「め」は意志の助動詞「む」が活用したものであり、この歌詞の本当の意味は「今、別れよう」という新しい道に踏み出す己の決意を示すものだったのです。どうでしょうか、こちらのほうがはるかに感動的ではありませんか?

 ちなみに「む」にはもう一つ「勧誘」という用法があり、この部分を「勧誘」で解釈すると「さあみんな、今ここで別れようじゃないか」というさらに感動的な歌詞となります。

 各学校の先生方には、この曲の歌詞の本当の意味を生徒たちに教えてから歌唱指導に入ることを望みたいと思います。みなさんが卒業式にこの歌を歌う時にはぜひ正しい意味を知った上で正しく感情をこめて歌ってください。

宮地先生