教室だより168

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第168回】

うぐいすの鳴き真似をしてみたら

 私の母親が町田市の鶴川というところに住んでおりまして、ときおり帰省しております。集合住宅の3階に位置し、道路をはさんだ北側には小さな丘が横たわっています。1年ほど前から、その中腹を開発して住宅建設が進んでいます。黄色いパワーショベルが行き来する様子は見ていて飽きが来ません。現在はコンクリートの土台が2層出来上がって、がけ崩れを防ぐために石垣のような壁を設置し終わったところです。どんな構造物が出来上がるか、先が楽しみです。
 さて、そこにはまだまだ緑が多く残されて大きな鳥が空から滑空してきたり、草むらから鳥が二羽飛び出してきたりしています。鳥たちは夜明け前から、日中の静けさとは反対ににぎやかに鳴き声を競い合っています。その中に鳴き声が特徴的なホーホケキョと鳴くうぐいすがいます。
 みなさんも高尾山のような山の中でうぐいすの声がしたら、口笛で返したことがある人はいるのではないでしょうか。私は試しに団地の一室からうぐいすの鳴き声に、口笛で返したら、返事でもするように鳴き声が返ってきました。こういうことを何回か繰り返していると会話をしているかのような錯覚さえしてきます。あっちが泣くから鳴き真似で返すということを心地よく感じられてきます。あたかも進化した電子デバイスのALEXAとしりとりをしているような感じです。普段都会に寝起きしている身には新鮮に感じられました。
 ここであまり役に立たない、うぐいすの鳴き真似のコツをお教えしましょう。口笛がふける人はホケキョがなるべく短く出せるようにします。それにホーを低音でつけることができたらほぼ完成です。低音のホーホケキョが返ってきたらここは俺の縄張りだぞと競り合っているのだそうです。
 うぐいすのモノマネといえば、故江戸家猫八師匠がピカイチでした。師匠の十八番は小指を咥えての指笛による名人芸で、聴衆を魅了していました。なかなか素人には真似ができません。
 うぐいすは2月から5月の繁殖期を終えると、あの独特の声を出しません。うぐいすは渡り鳥ではないので、すみかを変えることはないのですが、鳴き声が目立たないものに声変わりしてしまうのです。私の子供の頃は、竹でできた鳥かごにうぐいすやメジロを入れて縁側で飼われていましたが、1980年に野鳥保護法が施行されてから鳥の捕獲は禁止されてしまいました。親孝行がてらに実家に帰ってみると、思いがけない経験をするものです。もしかしたらこれが、今年最後の鳴き声の掛け合いだったのかもしれません。

藤田先生