教室だより175
専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)
【連載第175回】
富嶽百景
先日、高校生のテスト範囲に太宰治の「富嶽百景」が出て来ました。作者が実際に富士のふもとの御坂峠で体験した出来事をベースに描かれた作品です。富士山は見る場所、季節、時間によって見え方が大きく異なります。さらに、その時の精神状態やムードによっても見え方が変わってきます。この作品の中でも場所のみならず人との交流によって富士の見え方が変わります。「頼もしい富士」・「苦しい富士」・「風呂屋のペンキ画のような富士」・「月見草がよく似合う富士」。作者の気持ちを投影させた富士が数多く登場します。短い作品なので一度は読んでおきたいですね。
さて、私にとって記憶に残る富士山といえば、二つあります。一つは学生時代にお世話になった寮の窓からの富士です。二人部屋で冷暖房もなくボロボロの部屋でしたが、窓から見える富士山は唯一誇れるものでした。東京からでもこんなに大きく近く感じられるのかと驚いたものです。特に、冬の朝日を浴びる雪化粧の富士は輝くばかりに白く、部屋の中までなんだか明るく感じられました。
もう一つは、新幹線の車窓から見える富士山です。帰省する時、上京する時、私は必ず富士山の見える側の窓際に席をとります。東京駅を発ち約50分、新富士駅のあたりで一番の眺めとなります。頂上からすそ野の広がりまで一望でき、富士山の雄大さを堪能できる瞬間です。西側に向けてのすそ野の広がりがとても気持ち良く、自分が巨人だったら、あそこを滑り台にして遊びたいと思わせるほどです。また、「このあたりに住んでいる人たちは、この風景を毎日見ているのか。うらやましい。」などと思ったりもします。
通過する季節、時間帯によって見え方は様々。「夏の黒い富士」・「夕焼けに染まる赤い富士」・「青く頂が白いThe富士山」。まさに「富嶽百景」。もちろん雨や曇りの日には富士山は見えません。でも、そんな時は今まで撮りためた富士山の写真や動画で我慢。太宰治の「富嶽百景」においても写真の中の富士山が2~3か所登場します。読んだことがある人はどのシーンか思い出してみてください。
小杉先生 |