教室だより178

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第178回】

77年

 今年は終戦から77年ですが、明治維新から終戦までも77年であることは、御存知でしたでしょうか。いうなれば日本が勃興しては没落する期間とも言えるでしょう。
 現況を鑑みるに、言論界の状況は、片や「戦後」のみに頑なに拘り、体制側のすることにことごとく異を唱える勢力と、グローバリズムに諸手を挙げて賛成する勢力が目立つように思われます。それに対し、他方では、少数派ですが、日本の伝統への回帰を唱える方々もおられます。
 これは隣国の覇権主義にもグローバリズムにも呑み込まれないように伝統に帰ろうという主張ですが、かといって、日本的民主主義といわれる根回し、つまり事前に不平不満を拾い上げて調整し、少数派には別の機会に便宜を図り、皆で「空気」を読み合い、非常時には同調圧力で解決するという方式が、問題の解決策になるとも思えません。進化は放物線状の過程を辿るものであり、歴史は不可逆的で、単に復古してもむしろ進化に逆行することになります。一見以前と似たものが現われたとしても、その段階では人間の在りようも変化しており、いわば弁証法的に止揚されたものにメタモルフォーゼして現われます。
 また、彼らのナショナルなものを強化していく方向性も、未来志向とは思われません。社会主義的なインターナショナリズム自体は、「友愛」を実現していくという意味では正しいものと言えます。ただもちろんそれも、上部に独裁者や支配階層を戴いているようなものでは、やはりこれから目指すものとは言えないでしょう。これからは、ゲーテ的な個体主義と社会主義(現存するいわゆる社会主義国とはなんの関係もありませんし、もちろん社会主義インターのことをいっているのでもありませんが)の両極が活かされていかなければならないでしょう。
 そこで目指す方向性として私が心に留めているのは、シュタイナーの社会有機体三分節です。社会を経済、政治、文化に三分節化して捉え、経済は友愛、政治(法律)は平等、文化(精神生活)は自由を原理とするものです。経済問題は、生産者・流通業者・消費者がアソシエーションをつくって協議して解決していきます。シュタイナーやシルビオ・ゲゼル、ミヒャエル・エンデが唱える老化する貨幣(商品にたいする貨幣の優位性をなくすために貨幣も商品とともに減価する)なども参考になるでしょう。そして、法の適用にはもちろん不平等があってはなりません。それにたいして、精神生活(学問・芸術・宗教)はあくまで自由に基づくものでなければなりません。それを無視して、経済に自由を持ち込んだり、精神生活に平等をもちこんだりすることから、いろいろな混乱、害毒が生まれます。
 これからいろいろな意味で激動の時代になると思われますが、また新たな上昇の77年を迎えるために、ともに研鑽、努力を続けてまいりましょう。

塾長先生