月刊・教室だより

名物先生によるリレー連載(毎月20日更新)

【連載第188回】

「こども基本法」と、「子ども条例」

 あまり注目されていませんが、私たちの教室がある中野区は、昨年4月に「中野区子どもの権利に関する条約」を制定・施行しました。とても優れた内容で、一度目を通すことをお勧めします。前文の中ほどに素晴らしい文言を見つけました。

「子どものみなさん、迷うことや困ったことがあったら、周りの大人に相談してみてください。相談をすることは、悪いことではありません。あなたは、一人ではありません。私たち大人は、あなたの意見、考え、思いを受け止め、あなたの立場に寄りそい、あなたにとって最も善いことを一緒に考えます。あなたのことを応援している人がいることを忘れないでください。」

また、条文には次のような内容が。

第9条 子どもは、家庭、育ち学ぶ施設および団体の活動、地域社会等、あらゆる場面において、特に次に定める権利が保障されます。
⑸ 学び、休み、および遊ぶこと。そのために必要な環境が整えられること。
⑽ 子どもであることを理由に不当なあつかいを受けないこと。

第12条 子どもと関わる活動をする区民は、地域社会において、子どもの権利を保障するため、特に次に定めることについて必要な取組を行うよう努めるものとします。
⑴ 安全で安心できる環境のもとで生活すること。
⑵ 地域の活動等に参加し、自分の意見等を表明すること。
⑶ 休み、または遊ぶことができ、一人または集団で活動することができる居場所を利用すること。

―中野区子どもの権利に関する条例を制定しました |中野区公式ホームページ

 1989年国連総会において採択され、1990年に発効した「子どもの権利条約(通称)」は、子どもの権利を保障するグローバルスタンダードです。日本政府も1994年に批准していますが、それに対応する子どものための総合的な国内法は整備されず、国連から法整備をするよう勧告されていました。現実に子どもをめぐる様々な悲しい事件が頻発し、児童虐待の数が年々増加する中、やっとというべきか、昨年令和4年6月15日、国会において、「こども家庭庁設置法」などとともに、「こども基本法」が成立しました。(施行はどちらも令和5年4月1日)またそれに先立ち2021年4月には「東京都こども基本条例」が施行されています。

 国連による「子どもの権利条約」をふまえ、そして今後は国の「こども基本法」をふまえ、各地方自治体が子ども施策の基本を示すために制定する法規範が、いわゆる「子ども条例」です。たいていは、何らかの市民参加があり、そのうえで議会での話し合いを経て制定されます。「子ども施策を自治体が総合的・継続的・安定的に推進していくためには、条例という方法をとることが有効」(※)とされています。条例は法規範として行政を拘束し、縦割り行政の壁を取り払っていくきっかけを作り、施策や制度の確立を根拠づける力を持っているのです。
 また、子どもの権利擁護の仕組みとしての「子どもオンブズパーソン」などの設置が当面難しい状況でも、「理念的規定を定め、将来の制度創設を方向付けることも可能」(※)と考えられています。

(※)『解説 子ども条例』荒牧重人・喜多明人・半田勝久編(三省堂 2012年8月10日発行)

 私は、大人都合で子どもが圧迫されることがなるべく少なくなるような社会になることを願っています。その点から「中野区子どもの権利に関する条約」、「東京都こども基本条例」の今後、そして、国の「こども基本法」と「こども家庭庁」の中身について注視しています。これらが実効性を持って社会に位置付けられていく事を期待しています。

高橋先生