月刊・教室だより
名物先生によるリレー連載(毎月20日更新)
【連載第193回】
熟語作り
私は小学生の国語の授業でよく熟語作りをやります。例えば、「験」という漢字から「体験」「実験」「経験」という熟語を作ります。思いつかない場合は、辞書を使います。よって、みんな授業に漢字辞典を持ってきます。辞書には知らない言葉もたくさん載っているので、なるべく耳にしたことのある熟語を探すように指導しています。また、「岡」なら「静岡県」「岡山県」など有名な地名、「織」なら「織田信長」など歴史上の人物もOKにしています。みんな楽しそうに取り組んでいます。
さて、漢字と言えば、私にはタクシー乗車時に経験した面白いエピソードがあります。まだ私が20代の頃、タクシーの運転手が突然「人生の中で一番大切なものを漢字二字で言ってみて。」と尋ねてきました。なぜ二字熟語なのか気になりましたが、なぞなぞやギャグといった雰囲気ではなかったので、まじめに考えました。「家族」「友達」「金銭」「愛情」「希望」「親切」「目標」「娯楽」「趣味」いろいろ候補が思い浮かびましたが、結局「時間」と答えました。運転手はにやりと笑い「違うよ、健康だ。」と言いました。「やられた。」と思いました。
確かに自分が健康でないとお金も使い道がないし、家族の世話をすることも出来ません。また、たとえ自分自身が健康でも身近な人が健康でなければ、心底楽しむことも出来ません。「真理だ。この運転手は芥川龍之介の『杜子春』に出てくる仙人かなんかじゃないか。」とも思いました。私は健康が当たり前のものとなっていて、候補にあげることさえしていなかったのです。一人暮らしを始めたとき、「家に帰っても明かりはついていない。風呂は勝手にわいていない。座っていても飯は出てこない。服は脱ぎっぱなしだと結局ずっとそこにある。」と気付いて以来の衝撃でした。短い乗車時間だったので、根掘り葉掘り聞くことは出来ませんでしたが、
この運転手は他のお客さんにも毎回同じ質問をしているのでしょうか。もう一度乗車する機会があれば、一番多い答え、最高の答え、最低な答えを聞いてみたいものです。20代には考えもしなかった「健康」という二字熟語、50代の今となってはズシリと心に響きます運転手師匠。みなさんも一度身近な人にこの質問をぶつけてみて下さい。どんな返答が待ち構えているのか楽しみです。
小杉先生 |