月刊・教室だより

名物先生によるリレー連載(毎月20日更新)

【連載第196回】

根津さん

  私は父親の社宅があった関係で、幼稚園から小学校低学年まで、南青山に住み、青南小学校に通っていました。その後、幡ヶ谷に引っ越しましたが、その小学校には引き続きバスで通っていました。その頃、近くに根津美術館があり、当時は牧歌的な時代だったおかげで、皆「根津さん」と呼んで、庭に入り込み、池でザリガニ取りなどをして遊んでいました。大人になってから懐かしくなり再訪したいと思っていましたが、ちょうど思い立ったときに長く改築工事が行なわれていて、なんとなく行きそびれていました。それが先月、興味のある展示内容だったこともあり、ようやく新装なった(といってもだいぶ経っていますが)根津美術館に足を運びました。モダンな造りに設計し直されていて、庭園もあの場所としてはなかなか広大で美しく整備されており、カフェも三方ガラス張りで、人気があるのが頷ける居心地のよい雰囲気が漂っていました。驚きの変化です。
 根津美術館は、東武財閥の創設者で鉄道王の根津嘉一郎が所蔵した日本、東洋の古美術コレクションを保存、展示するために、邸宅を改装して開館したのが始まりです。収蔵品には国法七件、重要文化財八十七件等を含む一級品が揃っています。 
 私は仏教では『大般涅槃経』を所依の経典としていますので、涅槃図に関心がありましたが、今回は南北朝時代の行有・専有筆の『仏涅槃図』が展示されていて、興味深かったです。また、密教を少々修行していることもあり、『高野大師行状図画』が印象に残りました。仏教の聖者、聖徳太子関連では『聖徳太子絵伝』も鑑賞できました。シュタイナーが言葉をとおして善をもたらす者、キリスト衝動の最大の告知者は呼ぶ未来仏、弥勒菩薩にかんしては、クシャーナ朝の『弥勒菩薩立像』、三輪身の一、正法輪身であられる十一面観音菩薩にかんしては、唐代の宝慶寺『十一面観音菩薩立像龕』も、初めて拝観できました。他にも、源氏物語や平家物語の画帖(例の那須与一が扇の的を射抜く場面など)、殷時代の青銅器なども見られて、とても充実した時間が過ごせました。
 皆さんも、興味のある展示が行なわれる時期に一度訪れられると、なかなか見応えがありますよ。

塾長先生