教室だより4

専任講師陣によるエッセイ(毎月20日更新)

【連載第4回】

変換まちがい

  昔のワープロはプログラムが稚拙で、とんでもない変換がよくあったものです。「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」という俳句も、「柿喰え馬鹿ね…」などと変換されてしまい、「おまえこそ、バカだ!」と、ワープロに向かって怒鳴りたくなるようなことが、たびたびありました。
 私は、おもに高校英語の授業を担当していますが、今どきの高校生の中にも、変換まちがいの“天才”がいます。私の長年の観察によれば、この種の天才は5つのタイプに分類されるようです。

 あるクラスの授業で、「Nobody knows ~」は「God knows ~」と書き換えられることを教えました。「日本語にすると、“神のみぞ知る”という意味ですね」と言ったところ、ある生徒が、「えっ? “神の味噌汁”?」と驚きの声をあげました。驚いたのは、私の方です。このような生徒は、一番典型的な「単純型天才」タイプです。

 「encourage は、“励ます”という意味ですね」と説明したところ、急に不機嫌になった生徒がいました。不思議に思いましたが、はたと思い当たりました。その男子生徒は、若いのに頭髪が薄くなることばかり気にしていたのです。「潜在意識型天才」とでも言うべきタイプです。

 「この代名詞は何格でしょう?」と聞いたところ、「天守閣!」と叫んだ女子中学生がいました。中学生のクラスはまだ小学生のなごりがあり、先を争って正解を言い当てようとする“早押しクイズ状態”になることがあります。子どもらしい意欲の表れではあるのですが、パッと頭に浮かんだ知識を口にするぶん、珍回答の連続になります。
 ちなみにその子は、「この分詞は、何分詞ですか?」という質問には、「分母」と答えていました。多方面での知識が豊富すぎる(?)のでしょうが、皮肉を込めて、「学際型天才」と名付けることにしました。

 赤狩りで有名な「McCarthyism」(マッカーシズム) について、「真っ赤が沈むんですね」と返した子がいました。うーむ、ある意味、とても深い洞察ですね。「本質直観型天才」タイプの生徒です。

 最後に、「確信犯型天才」タイプをご紹介します。ある授業で、「ここのところ、よく復習しておくように」と言って、授業を終わらせようとしました。すると、ある男子生徒がドスのきいた声で、こう言ったのです。「先生、復讐していいんですか?」

 最近の中高生は、「ああ言えば、こう言う」という感じの、“返し”が上手です。しかしその一方で、日本語の常識を知らないがゆえの、とんでもない聞き違いをする生徒も、年々、確実に増えています。本人たちはいたって真剣なのが、天才が天才たるゆえんなのですが。
 英語を教えながら、「英語以前に、もっと日本語を教えなくてはならないのではないか」と感じることがしばしばあります。偏差値的にはかなり上位にランクされる高校の生徒でさえ、例外ではありません。
 当教室では、6名までの少人数クラスでやっています。したがって、学校や予備校の大人数クラスの授業では露呈しにくい個々人の実態が、明るみに出てしまうのでしょう。それは良いことはあるのですが、講師としては悩みが尽きないところです。

塾長先生