月刊・教室だより

名物先生によるリレー連載(毎月20日更新)

【連載第201回】

高校生の国語力

 数年前から「最近の子供の国語力の低下は問題だ」という言説が多いのですが、現場で教えている私は少し違った意見を持っています。

 高校生の現代文の読解力は、意外なことのように思われるかもしれませんが、20年以上前の生徒に比べると飛躍的に向上しています。ただし、選択枝があれば、という条件付きで。ご存知のように大学入試共通テスト(3年前まではセンター試験)はすべての問題が選択枝。出題文の内容の難しさや授業中の質疑応答から考えるととても解けそうにない生徒が、的確にことごとく正解を選んでいて驚かされることがしばしばです。しかし、記述問題はどんな易しい問題でも答えが書けない。作文・小論文はいわずもがなです。

 「自分の思っていることを丹念に言葉を選んで伝える」力は低下していますが、「相手の言おうとしていることをTPOの中で読み取る」力は飛躍的に向上しているのです。無論、読書量は全体的な傾向としては以前よりも減っているので、周囲との良好なコミュニケーションを保つために、スマホでの短いやり取りや会話の中で「相手の言いたいことを読みとる」訓錬が出来ているのでしょう。いわゆる「空気を読む」能力が高くなっているのです。塾の授業でも「空気を読まない」発言や行動をする生徒がほとんどいなくなっているので、昔に比べて実に和やかです。

 模擬試験は東大と早稲田の問題を足して2で割ったような入試の実情をはるかに超えたレベルの出題が多いので、模試で点が取れなくて悩んでいる生徒も志望校の実際の過去問を解いてみると7割以上解けることが多く、安心することがしばしば。結果、現代文ではあまり点差がつかず、ひとえに古文の出来が合否の鍵を握ることになります。

 古文に関しては、実際に毎年怖ろしいスピードで学力が低下し続けており、特に古文単語の知識は壊滅的です。これはテレビで時代劇が放送されなくなったことが大きく影響しているでしょう。私が高校生の時には「水戸黄門」「暴れん坊将軍」「遠山の金さん」「大岡越前」など、ゴールデンタイムにほぼ毎日のように放送されていました。「おぼつかない」「口惜しい」「ねんごろな」「いたづらに」「ゆゆしき」「こころもとない」「むげに」「ことわり」「おぼえ」「とく」「おぼしめす」「おはす」「つかうまつる」「かこつ」「そぞろな」「あたはぬ」などの語義は時代劇を見ていると自然に身についていたものですが、今の高校生にとっては純粋な古文単語。そのせいもあり、30年前に私が編集した「必修古文単語400」は今は555語に増量しています。

 さらに学校の先生の授業が現代語訳と品詞分解をひたすら丸覚えさせるだけのものになっていることが多いので、ほとんどの生徒にとって古文はチンプンカンプンで面白くない科目。しかし、200語程度の古文単語を丁寧に学び、係り結びや敬語法、基本的な15ほどの助動詞の意味を習得しておけば、持ち前の文脈を読む力により、見違えるほどに読めるようになる生徒が多いです。

 受験生の皆さん、たとえ模試で苦戦していても大丈夫。志望校の過去問を解いてみてください。現代文は「あれっ?意外に解ける」と思う方が多いと思います。古文はやみくもに問題を解いてもダメ。基本的な古文単語と文法をマスターすることが先決ですよ。

宮地先生