高橋先生の部屋(バックナンバー3)

 

 俳句日日録 その三  (2023年8月25日)


 秋立つや川瀬にまじる風の音    飯田蛇笏(だこつ)

 立秋と言えば、古今和歌集のあの有名な短歌、

 秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる  藤原敏行

が、中学三年生の教科書にも載っています。この名歌もあり、古来、秋が来たと言えば「風の音」、掲出句もその伝統をふまえています。
 例えば、江戸時代の与謝蕪村は、藤原敏行の歌をもじって、

 秋来ぬと合点させたるくさめかな

と、遊んでいます(くさめ=くしゃみ)。もともと俳句にとってパロディは本質的なものです。俳句の元になったのは、「俳諧の連歌」という室町時代にはやった連歌の変種。俳諧というのは、おもしろおかしいということです。
 それにしても、冒頭の飯田蛇笏の句は確かな実感を呼び覚ます力をもっています。川瀬の音に風の音を配したのが、その実感のもとでしょう。

 さて、この時期に私が作ってみたのは、

    立秋五句

 雨止みて歩道に川の百日紅(さるすべり)

 梅仕事終わりの瓶の持ち重り

 環八はカンナのみ輝く色彩

 バロックの耳鳴り遠き夜の蝉

 汗の子の握れる手より泥団子

 今回は立秋を過ぎて、処暑(暑さが収まるころ)になってしまいました。次回は立冬の頃に掲載できればと考えています。

▶ バックナンバー →(1)(2)